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たまこラブストーリー舞台探訪記〜後編〜

2015年 01月19日 20:45 (月)

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史織 「なんか、怖いよね。何かが急に変わっていくって。」
かんな「わたしも、宇宙の入口に立ったみたいな気分なんですよ。」
(「たまこまーけっと」第11話)

たまこまーけっと本編記事
たまこラブストーリー舞台探訪記〜前編〜

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幼馴染みからの突然の告白を受け、戸惑い、逡巡しながらも大人への階段を登るたまこ。
TV版では「お妃騒動」に直面し、たまこが届かぬ彼岸へと飛び立ってしまうこと、それにより日常性に変化が訪れることを「宇宙の入口に立ったみたい」と表現しています。「お妃騒動」に際しても友人や商店街への愛着を吐露して動じることのなかったたまこ。もち蔵からの突然の告白で、「ご近所さん」というコミュニティに抱擁された揺籃期は終りを告げ、少女は今、大人になります。

前編ではたまこの日常からもち蔵による告白までを紹介しました。今回後編は告白を契機にして変わるふたりの距離、激しく振れるふたりの意識が収斂されるラストシーンまでを、舞台とともに紹介していきたいと思います。

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もち蔵の告白に戸惑うたまこに、そしてそれを「やっちまった」自分に悶々とした思いを抱えたもち蔵。
いつものように朝、たま屋に入ろうと意を決したとき、出て来たのはあんこでした。

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出町橋で突然走り出したもち蔵。

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それまでの二人の関係を変えてしまったこと、それが結果として、自分が守るべきたまこを苦しめている矛盾。

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やり場のない感情、「なにやってんだ、俺ーーー!!」てな叫び声が聞こえてきそうですね(笑)。
さて、蒼空を背景に溜まる感情を吐き出すように叫びをあげるもち蔵のシーンですが、先に掲載した夜空を前に立ち竦むたまこと対になっているようにも思えます。作中(白い)鳥が羽ばたくシーンが二度、象徴的に登場します。二度目となる(日暮れの)仄暗い蒼空を白い鳥が漂うシーンは、若山牧水の和歌「かなしからずや」を想起させるものがありますね。
それが意味するものはもち蔵の孤独感でしょうか。

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終止無言(のように見える)でもち蔵を見守るあんこの大人びた姿も印象的です。
考えてみれば作中あんこの登場シーンではTVシリーズで見せたような「子どもらしい」所作の描写がほとんどなく、むしろたまこ以上に「女性らしさ」が強調されています(銭湯で髪を結うシーンなど)。既にTVシリーズでゆずき君との「小さな恋」を経験しており、OPでのネームのアイコンが(ゆずき君からプレゼントされた)アンモナイトだったことからも、劇場版では一歩先に大人の味を知ったあんこの姿を描こうとする意図が見えます。

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たまこは告白前、もち蔵は告白後に「星とピエロ」を訪れていますが、ここでのマスターの言葉と、二人の珈琲の飲み方にも微妙な差異が合って興味深いです。物語冒頭、マスターはたまこに「変わること」を示唆する言葉を呟いており、もち蔵には後悔もまた(人生の)味わいに転化すると説いています。たまこはミルクを取り上げられてブラックを、もち蔵は自ら砂糖を入れようとする手を止めてブラックを。受動性と能動性、ストーリー開始から中盤にかけての二人のスタンスの違いが描き分けられていますね。

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「星とぴえろ」を後にし、告白の場所で佇むもち蔵。

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「苦・・・」

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変わること、大人になることは孤独を受け入れることでもあります。彼は今、それを実感しているのかもしれません。


そしてここからたまこは、自身の中に芽生えていた慕情を自覚するステップを踏んでいきます。
最初は福さんが病院に搬送される際、もち蔵が率先して救急車に乗り込んだ時。次に、かつて母が死んだ際、もち蔵が餅で慰め、勇気づけてくれた記憶を取り戻した時。
このステップの中で、史織が与えた影響も見逃せませんね。史織が留学のため、ホームステイを計画していることをたまこに打ち明けた時、現状から「一歩踏み出す」勇気を持つ友人が、たまこにとって眩しく映ったことでしょう。そして、もち蔵から告白を受けたことを打ち明けた時、たまこの「好き」という言葉を引き出したのも史織でした。

それでもなお、異性として正面から向き合うことを躊躇するたまこでしたが、偶然にもひなこが豆大に宛てた「返歌」を聞くことにより、「一歩踏み出す」勇気が生まれます。満点の星空を見つめるひなこのシーンでは、夜空は「宇宙=畏怖すべき対象」としては描かれていません。あんこと共に母の恋の返歌を聴くことにより、生を実感している「この時」が生まれた奇跡に気付いた時、彼女の中で無限の闇は可能性へと転化したともいえるでしょう。

そして翌日、登校途中でのみどりとたまこ。

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「わたし、ちゃんとキャッチできるような気がする。」

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「ちゃんと、もち蔵にも返事する。」

たまこは自身の決意をみどりに告げます。
一瞬、寂しさと憂いを見せながら、「だね!」と精一杯の笑顔を返すみどり。

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これまた名シーン「上を向いて歩こう」とバトン演技。バトンに仮託されたもち蔵の想いを受け止めることに成功するシーンですが、少女としての最後のモラトリアムのようであり、華やぎの中に一抹の寂しさ感じます。

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演技の終盤、たまことみどりがすれ違い、二人が強くうなずきあうシーン。
それはたまこの決意と、それに対するみどりのエールでしょう。

【1月19日追記】

さて、この「Usagiyama Marching Festival」のモデルとなった公園ですが、京都市内に実在する場所であることがレンタサイクルの稲妻さん(@thunder_cycle)により明らかとなりました。園内には京都水族館、また梅小路蒸気機関車館も隣接しており、水族館前の芝生公園が今回会場のモデルとなった場所と思われます。

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パネルがステージを覆っているため分かりにくいのですが、よく見ると左側にステージ奥の屋根が見えます。

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こちらはかなり具体的で、背後に特徴ある京都水族館の屋根が映り込んでいます。

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本編を象徴する「たんぽぽ」の綿毛が飛ぶシーンですが、該当するポールはありませんでしたね。遠景からステージを望むとこんな感じでしょうか?

休校となった学校の教室、午前8時20分。
学校でもち蔵に想いを告げようとしたたまこに、最後の強烈な一押しを加えたものみどりでした。

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「大路、来ないよ。」

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「思いきったことするよね、いきなり転校だなんて。」

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「9時過ぎの新幹線、急げばまだ間に合うと思う。」

みどちゃん策士ですなw

しかしそこには、もち蔵に告白するよう嗾けた際に、自己嫌悪を口にしたようなみどりの鬱な表情はありません。TVシリーズでみどりはたまこを「クマのぬいぐるみ」に喩えていましたが、手放すときが来たことを悟り、受け入れたのでしょう。みどりの「少女」もこの時終わを告げます。

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「一歩踏み出す」勇気をもって、グラウンドの木に登ったかんなの額を初夏の風が撫で、二人が彼方を見つめるシーン。二人が見つめる先は、たまこともち蔵がいる方角とも重なります。
モデルとなった聖母女学院の体育館裏、グラウンドにある木々のいずれかなのでしょう。



物語はクライマックス、京都駅へ。

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近いようで遠かった二人の距離。

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もち蔵は烏丸方面から新幹線乗り場へと向かいます。

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その後を追い、南北自由通路ロッカー前を駆けるたまこ。

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JR在来線改札を通り過ぎ、エスカレーターを駆け下り。

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八条口の新幹線改札口。

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入場券を買う心の余裕すらありません。

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もち蔵が何号車に乗るのかすらわからずもホームをひたすらに目指し。

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11番線ホームにたどり着き、今まさに新幹線に乗り込もうとするもち蔵の姿を認めます。

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「もち蔵ーーーーー!」

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東京行きの「めばえ22号東京行き」。
乗車しようとしたもち蔵が振り返ります。

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「もち蔵ーーーーー!!」

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「たまこ!?」

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「待ってよ…待ってよーーーー。」
「なんで、なんで東京行っちゃうの?遠いよ?東京遠いよ?」
「ずっと近くにいたのに、なんで離れちゃうの?」

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「わたし、まだもち蔵に何も…わたし…」
溢れ出す感情が、たまこの口から次々に断片的な言葉となって表出します。

無意識のうちにたまこは糸電話をもち蔵にほうり投げて「あ、間違えた」
かつて豆大が「恋の歌」を送り、ひなこが「豆大さんへ」で返歌としたように、二人の絆の証である糸電話を通して恋の問答をすることに特別な意味を見いだしていたのかもしれません。

そしてもち蔵も状況を理解したのでしょうか。たまこに糸電話を投げつけて

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遠く響く電車の停止音が止んだ時、糸を通して伝わる言葉は





「もち蔵、大好き。ドーゾ。」




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***


二人の揺れる思いに焦点を当て、舞台とともに追想してゆく舞台探訪記、いかがでしたでしょうか。
映画を視聴した時から、「これはただの舞台探訪記事では収まらない作品」との思いで、構想をあれこれと練ってきましたが、「二人の恋の行方を、臨場感をもって(私自身が)楽しみたい」ということで普段と異なる探訪記事となりました。
「たまこラブストーリー」という映像作品の魅力については、前編冒頭で申しましたように、非常に多くの、そして優れた言説が溢れていますので私が敢えて語る必要性も少ないでしょう。「思春期の恋愛」というド直球なテーマ、アニメーションという表現技法、そして山田尚子監督という異才が結実して世に出た奇跡のような作品です。「映画を意識して制作した」と山田監督が述べていますが、繊細過ぎて実写映画では伝えることが困難な心の機微を、人物の所作や表情を通して「描く」ことによって、私のような映画素人でも容易にその本質に触れることが出来ます。映画ファンも唸らせるほどの巧みなカメラワークと、様々な暗喩を駆使した深みのある本作品は、芸術性を獲得しているとも言えます。作品に込められたシンプルな「恋=愛」「成長」というテーマの普遍性は時を経ても色褪せるものでなく、その芸術性とともに本作品が映像史の1ページとして記憶されていくことを願ってやみません。


*引用画像は全て比較研究目的で掲載しており、著作権は全て京都アニメーション・うさぎ山商店街にあります、ので。
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たまこラブストーリー舞台探訪記〜前編〜

2014年 10月15日 08:43 (水)

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"By always thinking unto them."

   - Isaac Newton -



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たまこまーけっと本編記事


デラが商店街を去って数ヶ月。
たまこが高校三年生に進級した春。
変わらず級友たちや「幼馴染み」もち蔵との日々を過ごしていたたまこに訪れたのは、移ろい行く季節と、茫漠たる未来へ向けて舵を取ろうとして少しずつ変わりゆく級友たちでした。


公開以来アニメを超越した「映画」としての評価、希代の王道青春ものとしての評価など、各方面から絶賛を受けている京都アニメーション・山田尚子監督最新作「たまこラブストーリー」。次々と繰り出される映像に散りばめられた含意や背景設定を巡る議論が多くのアニメファンを賑わせました。その解釈の多様性に毎回映画を視聴する度、そして媒体上でのファン達の言説を見る度にただ驚嘆するばかりでした。
しかし中心軸にあるのは間違いなく「たまこ」という一人の少女が恋を知り、目の前に広がる「宇宙」に戸惑い、恐れを抱きながらも「一歩」を踏み出していく物語。息をもつかせぬ濃密な感情に包まれる物語。山田監督をはじめとした作り手による知の結晶体ともいえる物語。

作品の解釈や暗喩を読み解いた優れた考察記事が既にありますが、探訪記前編は「たまこラブストーリー」の持つ魅力である、たまこやもち蔵、そして友人たちの「感情の機微」を、舞台となった京都・藤森と出町周辺の情景とともに追想いただけたらと思います。


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劇場版の始まりは級友や商店街のご近所さんとの変わらぬ日常シーンから。
TV版「たまこまーけっと」ではたまこの周囲で「お妃」騒動があり、さざ波が立ちながらも、自己を取り巻く共同体への愛着を再認識した、たまことそのコミュニティの関係に終着した物語でした。

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そんなたまこたちも高校三年生。
放課後の部活動を終え、疎水に架かる橋でいつもの通り談笑するたまこたち。

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そんな中、将来への思い、「留学」を口にする史織。最も寡黙であり、引っ込み思案であった彼女。まだ見ぬ世界へ踏み出そうとする想いを語る姿は、たまこたちにも少なからぬ影響を与えたことでしょう。

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つづけて将来の夢を口にしたのはかんな。夢は言うまでもなく、建築家としての進路でした。
でも、高いところダメなんですよねw

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史織とは駅改札口前で別れて。

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続いて帰路登場する鉄柵のある階段。
この背景は本編で二回登場しており、二回目では上空を旅客機が飛行機雲をたなびかせながら通過していきます。
本編OPにおいて各登場人物の紹介シーンにその人物を象徴するアイコンがネームのアンダーラインに登場しており、史織のアイコンが「飛行機」でした。本作でたまこ・もち蔵に対し直接的に作用を及ぼしたのはみどりでしたが、史織はたまこに「一歩踏み出す勇気」を与える非常に重要な役割を持ちます。それが顕著になるのは後半になってからですが。

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高校三年になり「初めて」同じクラスになったたまこともち蔵。同じクラスになってから、無意識のうちにたまこへの恋慕を強めていく様を、複雑な心境で見つめていたのはみどりでした。変わらぬたまこや、その友人たちとの「今」を守りたいと思いながらも、もち蔵に「変わること、変えること」を迫るみどり。そんな思春期の矛盾を体現したかのようなみどりの立ち振る舞いが、美しいピアノの旋律とともに流れる学校でのワンシーン。本作名シーンの一つと言ってもいいでしょう。そこへ出くわしたたまこの、調子の外れた笑いを誘う一言も緊張が走る劇場に弛緩をもたらす絶妙な効果を与えてくれます。

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たまこと一緒の去り際、みどりが溜め息まじりに残した「自己嫌悪」の言葉。この「自己嫌悪」が何に向けられてのものなのか、様々に解釈できると思います。想像するに、それは「できるわけがない」と確信していたもち蔵によるたまこへの告白をけしかけた自分に対するものなのではないでしょうか?ある意味恋敵であるもち蔵が、告白できずに終わることは彼の立ち直れないほどの敗北を意味するものであり、それを意図した自身の残酷さに向けられた自己嫌悪だったようにも思えます。それは同時に、10代の少女が内包する特有の残酷さであるような気もします。

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みどりに背中を押され、たまこに伝えることがある、と連れ出した場所は夕暮れ、近所の川岸(鴨川デルタ)でした。

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「飛び石だね。」
しばし小学生時代に思い出にふけるたまこ。

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思い詰めたもち蔵にあいも変わらぬ「お餅」の話題を無意識に振り向けるたまこ。
帰宅後のシーンからも、このときもち蔵はリュックを開け「糸電話」を取り出そうとしていたことがわかります。前日夜のシーンで「糸電話をたまこが受け取ることができたら、その時は・・・」「糸電話は心と心を繋ぐ」と述べていることから、「糸電話」がもち蔵にとって、たまことのコミュニケーションツール以上に意味のあるものであることが分かります。ここからは想像ですが、「糸電話」は二人が「幼馴染み」という特別な関係性を象徴するものとしてもち蔵に認識され、彼はその絆を縁(よすが)にして思いを伝えられるというある種の「甘え」があったのかもしれません。

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しかし、「お餅」の話題で喜々とするたまこを見て、もち蔵はリュックを閉じます。
「もう、いいや」というもち蔵の言葉が、このとき諦めを意味していたのか、これまでの自分との決別を意味していたのかは分かりません。自分は後者だと思っていますが。

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「お餅って、やわらかくて、白くて、やさしくって、いいにおいがして、あったかいんだもんなぁ。私もそんな人になれないかなって、思ってるんだ。なれるかな?」

「お餅」に見立てた小石を手のひらに語るたまこですが、同時に亡き母ひなこの映像がたまこの脳裏に流れることからも、「お餅」がたまこにとって自らを優しく包み込む母性の象徴であることが一目瞭然です。

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その言葉を聞いてもち蔵の表情が変わる様子も見てとれます。
このとき、もち蔵は引き返すことの出来ないところまで来たこと、そして幼馴染みではなく一人の男性として告白することを決意したのでしょう。

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「たまこ!」

自分とすれ違おうとするたまこを呼び止めるもち蔵。

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転びそうになるたまこを引き寄せると同時に、たまこにとって母性の象徴であった「小石=お餅」が手からこぼれ落ちます。

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「今日は助けてくれるんだね。」

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「もち蔵?」

既にたまこの心中ではいつもと違うもち蔵が眼前にいることを悟り始め、ある種の違和感とかすかな恐れを感じている様が、微妙にうわずったたまこの声からも聴き取れる気がします。

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「たまこ!」
「はい!?」

「おれさ、東京の大学に行くんだ。」



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たまこにとってのそれまでの「世界」は唐突に終わりを告げました。

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動揺のあまり激しくもち蔵を振り払い、勢い余って川へと転落。

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実際には頭半分程の水深しかありませんが(笑)。

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「かたじけねぇ」「かたじけねぇ」

告白を受けた衝撃で意識を失ったかの如く水中に沈みこみ、もち蔵に上半身を引き上げられてなお、焦点の定まらぬ震える瞳で惚けるたまこの姿には、心が締め付けられるほどの愛くるしさを覚えますね。
漫画的というか、アニメ的な演出の中でも、空気をためたスカートが水面で半沈みになっている異常なほどのリアルな描写が、そこに生身の人間が存在することを強く印象付けます。

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「あっし、先に失礼するでござんす」

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デルタを早足に駆け上がり、やがて駆け出すたまこ。
コミカルな動態を見せるたまこに、ここでまた愛くるしさを覚えます。

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そして急テンポなメロディと形質を失い色彩の海となった商店街を、今何が起こったのか必死に反芻しながら駆け抜けるシーン。告白を受けた少女の心象をこれほどまでに鮮やかに眼前に描いてみせた作品はこれまでに観たことがありません。


まさしく「たまこの」ラブストーリー開始となる前半部を背景とともに紹介してきました。
冒頭でも述べたように、本作品の最大の魅力の一つはたまこ、もち蔵、その友人たちの感情の機微とゆらぎを緻密に描いているところにあります。また、その舞台背景として新緑の藤森疎水、夕暮れのデルタなどの美しい色彩溢れる背景がそのまま彼・彼女らの心象と重なり、観る者の心の琴線に触れる静かなる力を添えているとも言えるでしょう。
次回は後半、たまこともち蔵の心の揺らぎと、怒濤のラストを背景とともに追いたいと思います。


*引用画像は全て比較研究目的で掲載しており、著作権は全て京都アニメーション・うさぎ山商店街にあります、ので。

たまこラブストーリーPV探訪

2014年 03月22日 23:03 (土)

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たまこまーけっと本編記事

昨年1月から3月にかけて放映された京都アニメーション「たまこまーけっと」。
出町・桝形商店街をモデルとした「うさぎ山商店街」を舞台に、たまこと友人たちや幼馴染み、そして商店街の人々との暖かくも人情味溢れるストーリーで人気を博しました。「everybody loves somebody」。この「love」すなわち愛。しかし主人公たまこの「love」は自分を育んだ商店街の人々への「愛着」であり、たまこ自身の「love」が作品上発露されることはありませんでした。
TV放映時には高校1年生だったたまこたちは、高校3年生に。
誰しも変わりゆく環境に戸惑いを覚えたことのあるこの「季節」。たまこに訪れたのは「love(恋)」の季節でした。

今回発表されたPVで登場した背景もTVとほぼ同じロケーションでした。少し早いのですが、映画公開を記念して劇場版で登場するであろう背景を、一部紹介していきましょう。

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劇場版:鴨川デルタ
もち蔵がたまこに告白する、おそらくは今回見せ場の一つとなるであろうシーンに選ばれたのは「けいおん」でおなじみの飛び石でした。

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劇場版:鴨川デルタ

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劇場版:鴨川デルタ
東京の大学に行くこと、そして自分の恋心を正面からぶつけるもち蔵。

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劇場版:藤森駅周辺

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劇場版:藤森駅周辺
東京に発つもち蔵のもとに駆けつける設定なのでしょうか?

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劇場版:京都駅11番線ホーム?
東京の大学を受ける、との言葉からすると、京都駅新幹線の11番ホームあたりが背景ではないかと思われます。
背景にフォーカスが合っていないのでぼやけていますが、奥に見える設置物からホーム東京方面端のほうでしょうか?

PVカットは以上となります。
冒頭にも申し上げましたが、本劇場作品はPVを見る限り、「たまこの恋」というより、もち蔵の恋に突き動かされ、段階一歩一歩踏みしめるたまこの物語となりそうです。
思えば、「成長の階段」というものは、自分で駆け上がるものではなく、自己を取り巻く環境や他者によって後押しされるものではないかと思います。もち蔵の言葉に、「恋」を知り戸惑いを隠せないたまこ。たまこに幼い頃から恋心を抱きながら打ち明けられず、自身の環境の変化と周りの人々に影響され、たまこに告白したであろう、もち蔵。そして二人にもどかしい想思いを抱きつつも、肩を押してくれる級友たち。
ドライな関係性が好まれるかもしれない現代にあって「面倒」で片付けられてしまう人間関係ですが、そこにこそ生きる喜びを再発見できるのではないかと思います。
今回の「たまこラブストーリー」、自身の根幹を揺さぶられる予感がしてたまりません。

*引用画像は全て比較研究目的で掲載しており、著作権は全て京都アニメーション・うさぎ山商店街にあります、ので。


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