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たまこラブストーリー舞台探訪記〜前編〜

2014年 10月15日 08:43 (水)

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"By always thinking unto them."

   - Isaac Newton -



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たまこまーけっと本編記事


デラが商店街を去って数ヶ月。
たまこが高校三年生に進級した春。
変わらず級友たちや「幼馴染み」もち蔵との日々を過ごしていたたまこに訪れたのは、移ろい行く季節と、茫漠たる未来へ向けて舵を取ろうとして少しずつ変わりゆく級友たちでした。


公開以来アニメを超越した「映画」としての評価、希代の王道青春ものとしての評価など、各方面から絶賛を受けている京都アニメーション・山田尚子監督最新作「たまこラブストーリー」。次々と繰り出される映像に散りばめられた含意や背景設定を巡る議論が多くのアニメファンを賑わせました。その解釈の多様性に毎回映画を視聴する度、そして媒体上でのファン達の言説を見る度にただ驚嘆するばかりでした。
しかし中心軸にあるのは間違いなく「たまこ」という一人の少女が恋を知り、目の前に広がる「宇宙」に戸惑い、恐れを抱きながらも「一歩」を踏み出していく物語。息をもつかせぬ濃密な感情に包まれる物語。山田監督をはじめとした作り手による知の結晶体ともいえる物語。

作品の解釈や暗喩を読み解いた優れた考察記事が既にありますが、探訪記前編は「たまこラブストーリー」の持つ魅力である、たまこやもち蔵、そして友人たちの「感情の機微」を、舞台となった京都・藤森と出町周辺の情景とともに追想いただけたらと思います。


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劇場版の始まりは級友や商店街のご近所さんとの変わらぬ日常シーンから。
TV版「たまこまーけっと」ではたまこの周囲で「お妃」騒動があり、さざ波が立ちながらも、自己を取り巻く共同体への愛着を再認識した、たまことそのコミュニティの関係に終着した物語でした。

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そんなたまこたちも高校三年生。
放課後の部活動を終え、疎水に架かる橋でいつもの通り談笑するたまこたち。

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そんな中、将来への思い、「留学」を口にする史織。最も寡黙であり、引っ込み思案であった彼女。まだ見ぬ世界へ踏み出そうとする想いを語る姿は、たまこたちにも少なからぬ影響を与えたことでしょう。

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つづけて将来の夢を口にしたのはかんな。夢は言うまでもなく、建築家としての進路でした。
でも、高いところダメなんですよねw

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史織とは駅改札口前で別れて。

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続いて帰路登場する鉄柵のある階段。
この背景は本編で二回登場しており、二回目では上空を旅客機が飛行機雲をたなびかせながら通過していきます。
本編OPにおいて各登場人物の紹介シーンにその人物を象徴するアイコンがネームのアンダーラインに登場しており、史織のアイコンが「飛行機」でした。本作でたまこ・もち蔵に対し直接的に作用を及ぼしたのはみどりでしたが、史織はたまこに「一歩踏み出す勇気」を与える非常に重要な役割を持ちます。それが顕著になるのは後半になってからですが。

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高校三年になり「初めて」同じクラスになったたまこともち蔵。同じクラスになってから、無意識のうちにたまこへの恋慕を強めていく様を、複雑な心境で見つめていたのはみどりでした。変わらぬたまこや、その友人たちとの「今」を守りたいと思いながらも、もち蔵に「変わること、変えること」を迫るみどり。そんな思春期の矛盾を体現したかのようなみどりの立ち振る舞いが、美しいピアノの旋律とともに流れる学校でのワンシーン。本作名シーンの一つと言ってもいいでしょう。そこへ出くわしたたまこの、調子の外れた笑いを誘う一言も緊張が走る劇場に弛緩をもたらす絶妙な効果を与えてくれます。

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たまこと一緒の去り際、みどりが溜め息まじりに残した「自己嫌悪」の言葉。この「自己嫌悪」が何に向けられてのものなのか、様々に解釈できると思います。想像するに、それは「できるわけがない」と確信していたもち蔵によるたまこへの告白をけしかけた自分に対するものなのではないでしょうか?ある意味恋敵であるもち蔵が、告白できずに終わることは彼の立ち直れないほどの敗北を意味するものであり、それを意図した自身の残酷さに向けられた自己嫌悪だったようにも思えます。それは同時に、10代の少女が内包する特有の残酷さであるような気もします。

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みどりに背中を押され、たまこに伝えることがある、と連れ出した場所は夕暮れ、近所の川岸(鴨川デルタ)でした。

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「飛び石だね。」
しばし小学生時代に思い出にふけるたまこ。

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思い詰めたもち蔵にあいも変わらぬ「お餅」の話題を無意識に振り向けるたまこ。
帰宅後のシーンからも、このときもち蔵はリュックを開け「糸電話」を取り出そうとしていたことがわかります。前日夜のシーンで「糸電話をたまこが受け取ることができたら、その時は・・・」「糸電話は心と心を繋ぐ」と述べていることから、「糸電話」がもち蔵にとって、たまことのコミュニケーションツール以上に意味のあるものであることが分かります。ここからは想像ですが、「糸電話」は二人が「幼馴染み」という特別な関係性を象徴するものとしてもち蔵に認識され、彼はその絆を縁(よすが)にして思いを伝えられるというある種の「甘え」があったのかもしれません。

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しかし、「お餅」の話題で喜々とするたまこを見て、もち蔵はリュックを閉じます。
「もう、いいや」というもち蔵の言葉が、このとき諦めを意味していたのか、これまでの自分との決別を意味していたのかは分かりません。自分は後者だと思っていますが。

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「お餅って、やわらかくて、白くて、やさしくって、いいにおいがして、あったかいんだもんなぁ。私もそんな人になれないかなって、思ってるんだ。なれるかな?」

「お餅」に見立てた小石を手のひらに語るたまこですが、同時に亡き母ひなこの映像がたまこの脳裏に流れることからも、「お餅」がたまこにとって自らを優しく包み込む母性の象徴であることが一目瞭然です。

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その言葉を聞いてもち蔵の表情が変わる様子も見てとれます。
このとき、もち蔵は引き返すことの出来ないところまで来たこと、そして幼馴染みではなく一人の男性として告白することを決意したのでしょう。

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「たまこ!」

自分とすれ違おうとするたまこを呼び止めるもち蔵。

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転びそうになるたまこを引き寄せると同時に、たまこにとって母性の象徴であった「小石=お餅」が手からこぼれ落ちます。

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「今日は助けてくれるんだね。」

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「もち蔵?」

既にたまこの心中ではいつもと違うもち蔵が眼前にいることを悟り始め、ある種の違和感とかすかな恐れを感じている様が、微妙にうわずったたまこの声からも聴き取れる気がします。

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「たまこ!」
「はい!?」

「おれさ、東京の大学に行くんだ。」



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たまこにとってのそれまでの「世界」は唐突に終わりを告げました。

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動揺のあまり激しくもち蔵を振り払い、勢い余って川へと転落。

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実際には頭半分程の水深しかありませんが(笑)。

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「かたじけねぇ」「かたじけねぇ」

告白を受けた衝撃で意識を失ったかの如く水中に沈みこみ、もち蔵に上半身を引き上げられてなお、焦点の定まらぬ震える瞳で惚けるたまこの姿には、心が締め付けられるほどの愛くるしさを覚えますね。
漫画的というか、アニメ的な演出の中でも、空気をためたスカートが水面で半沈みになっている異常なほどのリアルな描写が、そこに生身の人間が存在することを強く印象付けます。

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「あっし、先に失礼するでござんす」

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デルタを早足に駆け上がり、やがて駆け出すたまこ。
コミカルな動態を見せるたまこに、ここでまた愛くるしさを覚えます。

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そして急テンポなメロディと形質を失い色彩の海となった商店街を、今何が起こったのか必死に反芻しながら駆け抜けるシーン。告白を受けた少女の心象をこれほどまでに鮮やかに眼前に描いてみせた作品はこれまでに観たことがありません。


まさしく「たまこの」ラブストーリー開始となる前半部を背景とともに紹介してきました。
冒頭でも述べたように、本作品の最大の魅力の一つはたまこ、もち蔵、その友人たちの感情の機微とゆらぎを緻密に描いているところにあります。また、その舞台背景として新緑の藤森疎水、夕暮れのデルタなどの美しい色彩溢れる背景がそのまま彼・彼女らの心象と重なり、観る者の心の琴線に触れる静かなる力を添えているとも言えるでしょう。
次回は後半、たまこともち蔵の心の揺らぎと、怒濤のラストを背景とともに追いたいと思います。


*引用画像は全て比較研究目的で掲載しており、著作権は全て京都アニメーション・うさぎ山商店街にあります、ので。

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